2026.04.01
補助金
賃上げ要件未達で返還命令!?
ものづくり補助金で後悔しないための実務ポイント

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ものづくり補助金、気になってはいるけど、結局よく分からない。
そんな社長さんも多いのではないでしょうか。
2020年から累計23回の公募があった「ものづくり補助金」。
初期に交付決定を受けていた事業者さんは、年に1回の事業化状況報告も3回目〜4回目くらいに突入している頃と思います。
このタイミングで良く耳にするのが、「賃上げ要件未達で補助金を返還」というお声。
なぜこんな事態になったのか。
返還命令が来たらどう対処すればいい?
そんな疑問にお答えしたいと思います。
事業化状況報告とは何か?ものづくり補助金はもらったら終わりではありません
ものづくり補助金の交付後、5年間は「事業化状況報告」という報告を要求されます。
事業化状況報告では、補助金で取得した設備を使い、会社でどれくらい儲かったかを報告します。
補助金の交付が終わったからといって、安心してはいけません。
賃上げ要件とは何か?
ものづくり補助金では、補助金交付の見返りとして、従業員の賃上げを求められます。
- 設備投資で生産性を上げる
- ↓
- 付加価値を生む
- ↓
- 稼いだ付加価値で従業員の賃金を上げる
この事業計画の王道ストーリーに沿った設備投資をしているかをモニタリングされるのです。
初期のものづくり補助金では、賃上げ要件は以下のようになっていました。
※以下、ものづくり補助金の公募要領から引用
以下を満たす3〜5年の事業計画の策定及び実行
- 給与支給総額を年率平均1.5%以上増加すること
- 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること
事業化状況報告でこの2つの要件を満たしていない場合には、補助金返還をしなければなりません。
補助金返還額の計算:給与支給総額要件が未達の場合
「給与支給総額が年率平均1.5%増加目標が未達」の場合と「事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上が未達」の場合で返還額は異なります。
「給与支給総額が年率平均1.5%増加目標が未達」の場合の返還について、公募要領には以下の記載があります。
事業計画終了時点において、給与支給総額の年率平均1.5%以上の増加目標が達成できていない場合は、導入した設備等の簿価または時価のいずれか低い方の額のうち補助金額に対応うる分(残存簿価×補助金額÷実際の購入金額)の返還を求めます。
この説明だけだと少し分かりづらいかもしれませんね。具体例で説明します。
ものづくり補助金(補助率は3分の2)を使い、1,500万円の小型NC加工機を導入。耐用年数は8年。この設備を「定額法」で減価償却をするとします。交付を受けた補助金額は1,000万円です。
3年間の事業計画期間で達成できない場合、補助金の返還額は以下のようになります。
- 事業計画期間(3年)終了時の残存簿価:1,500万円×未償却の年数5年/耐用年数8年=937.5万円
- 補助金返還額:補助金額1,000万円×残存簿価937.5万円/購入金額1,500万円=625万円
つまり、「1,000万円もらったつもりでも、実質的には375万円しか残らない」という計算になります。
しかし、これはあくまでも減価償却を定額法で行った場合の計算です。減価償却を200%定率法で行うならば、補助金返還額はもっと抑えることができます。
補助金返還額の計算:事業場内最低賃金要件が未達の場合
事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上が未達の場合の返還額は、公募要領にて以下のように書かれています。
事業計画期間中の毎年3月時点において、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていない場合は、補助金額を事業計画年数で除した額の返還を求めます。
これも具体例で説明します。
先ほど出てきた1,500万円の小型NC加工機。東京都に工場のある別の事業者様も、ものづくり補助金で取得していました。
この事業者様は、令和6年度末で事業計画2年目が終了。令和6年度の東京都の最低賃金が1,163円なので、事業場内最低賃金は1,193円になっていなければなりません。
ところが、賃金台帳を見てみると、事業場内最低賃金が1,170円だったので、要件を満たしていません。この場合の返還額は以下のようになります。
- 事業計画年数:2年
- 補助金返還額:補助金額1,000万円÷事業計画年数2年=500万円
給与支給総額要件と違い、最低賃金要件は未達が分かった時点で即刻返還となってしまいますので、注意が必要ですね。
補助金返還の免除の考え方①:付加価値増加要件未達による免除
ものづくり補助金でなぜ賃上げをしなければならないのか?
先ほどもお伝えした通り、この補助金には以下のような王道のストーリーが背景にあります。
- 設備投資で生産性を上げる
- ↓
- 付加価値を生む
- ↓
- 稼いだ付加価値で従業員の賃金を上げる
賃上げの源泉になるのが「付加価値(簡単に言えば粗利益のこと)」です。従って、設備投資の結果、付加価値が上がっていないならば、賃上げもしようがありません。
公募要領には、返還免除について以下のように書かれています。
給与支給総額については、その額の年率平均増加率平均が付加価値額の年率増加率平均1/2を超えている場合には返還を求めません。
つまり、「賃上げはしている」「けれども、年率1.5%も上げられなかった」「そして、付加価値はむしろ下がっている」といった状況ならば、返還の必要はないということです。
補助金返還の免除の考え方②:一人当たり賃金増加率で再ジャッジ
給与支給総額(全従業員の給与の合計額)って、目標達成が意外と難しい要件なのです。
なぜならば、「補助金交付後に従業員が退職してしまい給与支給総額が減少」とか「残業手当が減ったことで給与支給総額が減少」とか、減ってもおかしくはないのです。
そこで、「給与支給総額」が未達だった場合には「一人当たり賃金増加率」を達成したかどうかで再ジャッジします。要するに、従業員が減ったとしても、残ってくれている人たちの賃上げをちゃんとやっているならば、免除の可能性があるということです。
「一人当たり賃金増加率」の達成目標は「+1.5%以上」。
もし御社の全従業員の平均年収(1人当たり賃金)が500万円だったとします。事業計画期間が3年ならば、3年後の平均年収が以下の数字になっていれば良いということ。
- 500万円×1.015×1.015×1.015≒523万円
実際、当社の支援先も、残業手当が減ったことで給与支給総額要件が未達でしたが、毎年着実に賃上げをしたことで、「一人当たり賃金増加率」の増加目標を達成、補助金返還が免除になっています。
補助金交付済みの事業者様へ!毎年チェックすべき2つのポイント
では、何に気をつければいいのか。
実務上は、以下の2点を必ず押さえておくことが重要です。
・最低賃金が基準を満たしているか
・給与支給総額の推移を毎年チェックしているか
この2つを押さえておくだけでも、返還リスクは大きく下げることができます。
もし達成できているかどうか不安がある場合には、申請を支援してくれた支援機関(コンサル会社や士業・金融機関など)に早めに相談するのが良いでしょう。
申請検討中の事業者様へ!補助金交付後も踏まえた事業計画づくりを!
これからものづくり補助金の申請を検討している事業者様へ。事業計画書は採択だけを狙っていると後悔することになります。必ず、申請段階で賃上げのシミュレーションもしておきましょう。
現在は要件がさらに厳しくなっており、増加目標が当初の1.5%から、3.5%と跳ね上がっています。下手をすれば、もらった補助金以上に、賃上げによるキャッシュアウトが重くのしかかることになります。
シミュレーションをしてみて「ちょっと無理かなあ」と思ったら、申請を見送るのも一つの手です。決して支援機関に丸投げにせず、経営者が自ら考えてみることです。
補助金はうまく活用すれば大きな武器になりますが、一歩間違えると経営の負担になりかねません。
ぜひもらうことだけでなく、その後も見据えて判断していきましょう。
